★ 当日配布資料 資料
★ 報告
第2回目の懇談会は、80年代から現在まで日本のメディア運動を担ってきたキーパーソンの一人、松原明さん(ビデオプレス、レイバーネット、MediR)を招いて開催された。 テーマは「ペーパータイガーTVと日本のメディア運動」だが、報告は最近のネット動画・ライブ配信の活動にまで及んだ。現在でもメディア運動の中心的存在であるが、松原さんの功績としてまず最初に挙げなければならないのは、92年につくられた民衆のメディア連絡会事務局長としての活躍である。民衆のメディア連絡会結成は、日本と海外の情勢およびメディア運動の展開に呼応して結集された日本のメディアアクティビズム黎明期の歴史的な結節点とも言うことができるだろう。したがって、民衆のメディア連絡会結成の経緯、90年代メディア運動の発展と連絡会活動休止(2000年)までのおおよその時代に絞ってまとめてみたいと思う(その他の部分は映像や資料を参照)。
80年代後半から、世界の社会運動の現場で小型ビデオカメラが活躍を始める。市民撮影の映像が社会にインパクトを与えた事例として、89年のルーマニア・チャウシェスク政権崩壊をとらえた映像、91年の米ロサンゼルスでスピード違反の黒人男性が白人警官によって集団暴行を加えられた映像などが挙げられた。このような流れの中で、80年代前半から活動を始めていたアメリカのペーパータイガーTVが、ケーブルテレビを使って、全米から集められた湾岸戦争を支持しないオルタナティブな映像を連続的に発信していく。同時期に、労働運動とメディアに共通の関心をもつアメリカのスティーブゼルツァー氏(レイバーテック)と韓国の金明準氏(労働者ニュース制作団・映像メディアセンターMEDIACT現所長)と松原さんが知り合い、時を同じくしてペーパータイガーTVとも出会うことになった。早速、ペーパータイガーTVからキャシー・スコットさんを招き、韓国や台湾、チリなどのビデオ映像も紹介する民衆のメディア国際交流集会が開かれた(91年12月)。まさに世界のメディア運動と日本のメディア運動の出会いの瞬間であり、民衆のメディア連絡会の出発点とも言えるものだった。松原さんは、ペーパータイガーTVが湾岸戦争を指揮したブッシュ大統領の「New world order(新しい世界の秩序)」に対抗して言った「News world order(情報新秩序)」の精神に強い共感を覚えたという。
民衆のメディア連絡会に結集したのは、「伝えたいことを伝えたい。マスメディアがだめなら自分たちでやるしかない」というスピリットに共感した自主的なビデオ制作、映画制作、上映運動をしていた個人やグループだった。はじめは20人ほどのゆるいネットワークで、できることリストの作成から始め、ビデオ映像を作って見せる交流するを主眼にした活動が始まった。毎月の例会や勉強会、年1回の交流集会、ニュースレターの発行などを重ね、やがてビデオ作品のリストになり、メーリングリストは400名を超すまでに発展した。
連絡会メンバーの手によって、「無法ポリスとわたりあう方法」、「新宿路上テレビ」、「あなたは天皇の戦争責任をどう思いますか」、「人らしく生きよう―国労冬物語」、ビデオ塾、などの映像作品やグループが輩出されていった。新宿路上テレビの制作者は、「野宿者のドキュメンタリをつくって見せたら、野宿者が喜んでくれて出演意欲も感じたので、TVニュースのパロディという形でそこにあるコニュニティの姿とその世界観を現出させたかった。支援者も当事者もこの場を形成しているみんなの世界を形にしたかった」と語っている。松原さんはこの時期の活動に、当事者の発信・タブー無し・自由な発表形態といったメディアアクティビズムの原型を見ることができると指摘している。
しかし、民衆のメディア連絡会は2000年にメーリングリストを残しながらも、オフラインの活動を休止しファーストステージの活動を終える。各分野に専門性をもつメンバーが増えそれぞれに特化した方がいいだろうという判断と、メーリングリストの荒れによる疲弊があったという。ここには現在の私たちが学ぶべきポイントがあると感じる。メーリングリストの荒れが直接的な契機になったとは言え、交流メインの活動によって築かれた多分野横断的な活動を一歩引き上げるためには、交流に留まらない運動としての戦略性や工夫がさらに必要ではなかっただろうか。後退と低迷を続ける日本の社会運動が独自のメディア獲得に成功していないこととも無縁ではないだろう。
最後に、松原さんは9点に渡って、現在の日本のメディア運動に対する問題提起を行った。その締めとして、民衆のメディア連絡会のような意識的な場づくり、ネットワークの再生を強調した。私たちがセカンドステージを拓き、日本のメディア運動の今日的な発展を望むなら、民衆のメディア連絡会の成果と限界を時代的特徴と合わせて深く学ぶ必要がある。 (MediR 松浦敏尚)
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